WA5PS

  26-29 Oct. '12 


 2012年10月にAH0BTのメンバーとしてWW SSBに参加した際に、WA5PS/KH0を運用いたしました。
 WA5PSは、小松左京のSF長編「復活の日」に登場するコールサインです。

 運用記に替えて、「小松左京マガジン第45巻」(発行・イオ/発売・角川春樹事務所)掲載の「WA5PS顛末記」を転載いたします。
 WA5PSを「小松左京記念局」と名乗らせていただくご許可を小松左京事務所に問い合わせたことがきっかけで、小松左京マガジンに記事を執筆させていただく機会を得ました。
 子供の頃からSFを読み続けけてきた私にとって、小松左京先生の名を冠した雑誌に原稿を書かせていただけたことは夢のようです。目次の同じページに、私の名前が、私の一番好きなSF作家である豊田有恒先生と並んで載っていたのを目にしたときは大感激でした。



コールサイン「WA5PS」獲得顛末記
 筆者ら日本のアマチュア無線家4名(注1)のグループは、昨年、WA5PSというアメリカのアマチュア無線コールサインを取得しました。日本国内で使用することはできないのですが、グアムやサイパンを含むアメリカ国内であれば、このコールサインを使ってアマチュア無線運用ができます。
 小松左京作品の愛読者であれば、このコールサインに見覚えがあるのではないでしょうか。「復活の日」で、未知の病原体の“奇妙な性質を、ほぼ完全に”つきとめ、その情報をアマチュア無線を通じて全世界に発信続けたアマチュア無線家のコールサインなのです。「増殖感染する核酸」の宿主になる球菌の名前にもなりました。
 今回、私たちがどうしてこのコールサインを取得することができたか、その背景などをご紹介したいと思います。


 現行本 ハルキ文庫 「復活の日」



 角川文庫 「復活の日」

注1 JJ1WTL本林、JQ2GYU櫻井、JE4SMQ三谷、JK1FNL小林

■なぜアメリカのアマチュア無線免許を取得するのか

 アマチュア無線は、電波を使って音声やモールス符号による交信を楽しむ趣味です。他の趣味と異なる点があるとすれば、無線従事者という資格を取り、無線局の免許を得なくてはならいないということでしょう。
 日米間の取り決めがあり、日本のアマチュア無線の免許を持っていれば、アメリカでも特別な許可なく運用することができます。しかし、運用できる周波数や送信出力に制限が生じてしまうため、アメリカの免許を得たいという欲求が生まれます。
 また、アマチュア無線では、世界中をあるルールにより340ほどの国や地域に分け、そのうちどれだけ多くの場所と交信できるかを競うゲームがあります。したがって珍しい場所から運用すれば、世界中から一斉に呼ばれることになります。そういった地域に出かけて行って、たくさんの局と、次々と交信していくのは、アマチュア無線家にとって、このうえない楽しみなのです。私たちWA5PSメンバーも、イースター島やケニア、北極圏のスバルバール島、南シナ海のスプラトリ諸島(7か国の領土争いの舞台となっています)などから運用経験があります。
 そのような場合、運用する国の免許を得なくてはなりませんが、日本の免許よりもアメリカの免許のほうが、通用する国が多く、免許申請が簡単な場合も多いのです。

■アメリカと日本、免許の違い

 アマチュア無線の試験を受験するため、わざわざアメリカに行く必要はありません。日本国内でも受験可能なのです。そこに、日本とアメリカにおける「資格」や「免許」に関する考え方の違いを感じます。
 日本のアマチュア無線資格は4つのクラスに分かれています。試験の出題範囲はほぼ同じで、問題の難易度で差別化されています。したがって、どのクラスから取得しても構いません。国家試験合格、あるいは国から認可された養成課程講習会の受講と終了試験合格(ただし講習会は初級資格に限る)で資格が得られます。
 無線従事者としての資格を得たうえで、別途無線局の免許を申請して、アマチュア無線局を開設する必要があります。
 試験科目は電波法規と無線工学ですが、無線工学には物理の問題そのものといったものも出題されています。真面目に理解しようとすると、かなりの難しさです(とはいっても、過去問題丸暗記で合格できてしまうのですが)。
 正直言って、アマチュア無線を楽しむための知識とは懸け離れた、不必要に難しい問題が多いように思います。

 アメリカのアマチュア無線資格も試験に合格することで得られます。現在では3つのクラスに分かれていますが、各資格で出題範囲が分かれており、下位資格から順番に合格していく必要があります。
 また、日本と大きく違うのは、試験を実施するのがアマチュア無線家からなるボランティア組織だということです。試験問題もアマチュア無線家による専門チームが実践的な内容でまとめています。これらの問題は、各クラスごとに数百問からなる問題集として公開されており、試験ではその中から出題されることになっています。
 つまり、問題集に目を通すうちに、各資格クラスに合った、アマチュア無線を楽しむための実践的な知識が自然に身に付くのです。たいへん合理的なしくみとなっています。
 またアメリカでは、無線従事者の資格と無線局の免許の区別がなく一体となっています。試験に合格すれば、アマチュア無線局のコールサインが自動的に割り当てられます。

■アメリカの試験は日本でも受験可能

 アメリカのアマチュア無線免許を得る条件に、国籍条項はありません(これは日本の資格、免許も同様)。そして、試験を実施するボランティアにも国籍条項はありません。また、試験がアメリカ国内で実施されなくてはならないという制限もありません。
 そのため、前述の通り、日本国内でもボランティアによる試験が実施可能なのです。試験問題はもちろん英語ですが、実践的な問題が多いこともあり、日本でアマチュア無線を長年楽しんできたひとにとっては、難易度は高くありません。
 また、一種の裏ワザ的な方法ではありますが、日本の上級資格を取得する代わりに、アメリカの最上級の資格をとるひとも多いようです。アメリカの最上級資格は、日本において、日本の最上級免許と同等に扱われるためです。

■好きなコールサインが得られる

 アメリカのアマチュア無線局に割り当てられるコールサインは様々なバラエティがあります。これは、国際電気通信連合(ITU)によりアメリカに割り当てられている範囲が広いためです。K、N、Wから始まるコールサインはすべてアメリカのものです(加えて、AA〜ALで始まるものも割り当てられています)。
 日本は、第二次大戦の敗戦国であったため、それまでJで始まる範囲のすべてが割り当てられていたのに、JA〜JSだけになってしまいました(その他、7J〜7N、8J〜8Nもあり)。
 余談ですが、イタリアにはIで始まる範囲がすべて割り当てられています。連合国に対して無条件降伏後、ドイツに宣戦布告したイタリアの微妙な立場が反映されているようです。
 日本でもアメリカでも、アマチュア無線のコールサインは、順番に従って機械的に割り当てられます。しかし、アメリカには、ITU-Tから割り当てられている範囲で、かつ他局によって使われていないコールサインであれば、好きなコールサインを申請によって取得できる制度があるのです。
 私は、自分の名前であるNaoにちなんだNA8Oというコールサインを得ることができました。
 このとき、じつはとても悩んだのです。WA5PSが空いていて、希望すれば取得できることに気がついていたからです。
 しかし、最上級の資格を持っていなければ申請することができない4文字のコールサインへの憧れもあって、WA5PSをあきらめることにしました。

■日本のアマチュア無線はどうなっているか

 現在40台後半の私ですが、中学校の同じクラスに3,4人は、アマチュア無線免許保持者がいたと思います。科学少年、工作少年の多くは、模型工作から電気工作、そしてアマチュア無線という道をたどったのではないでしょうか。それが、日本のエレクトロニクス産業発展の礎のひとつであったと思います。
 残念ながら、現在、日本におけるアマチュア無線局数は減少し続けています。いまの少年に科学する心、ものづくりの心がなくなったわけではないでしょうが、それらは他の分野に向かってしまっているようです。
 また、携帯電話やインターネットの普及により「電話代を気にせずおしゃべりができる」というアマチュア無線が手段だった層がいなくなってしまったことも理由でしょう。
 一方で、最近、かつての無線少年がアマチュア無線を再開するというケースが増えているようです。
 私はアマチュア無線の特徴は「自分の技術と知識で電波を飛ばす」ことにあると考えています。とくに電離層での電波の反射を利用する短波帯での海外との通信は、一日のうちでも、季節によっても、また11年周期で変動する太陽活動によっても、電波伝播状況が変化します。地球や宇宙を相手のしたスケールの大きな趣味であるといえます。
 私は「大人の知的な趣味」としてのアマチュア無線の復権を目指して、活動し続けたいと考えています。

■非常時のアマチュア無線

 「復活の日」では、(おそらく)インフラ崩壊後の最後の通信の手段として、アマチュア無線が登場しました。
 電話網は、当時も今も、交換機や多重化装置をはじめとする複雑で巨大なインフラに支えられています。現代の携帯電話やインターネットも同様です。
 一方でアマチュア無線は、無線機とアンテナさえあれば、中継インフラがなくても通信できてしまいます。簡単なアンテナなら、数m〜数十mのワイヤがあれば作ることができます。長距離の通信は、電離層の状態に左右されるため、いつでも、望んだ地域と通信できるわけではありませんが、「どこか」とは通信可能です。
 したがって、極限状態においては、アマチュア無線が最後に残る通信手段であるといえるでしょう。
 ただし、非常時に「通信できること」と、「通信が有効に機能すること」は、また別の話です。WA5PSメンバーのなかには、昨年の大震災直後に被災地との通信に携わったメンバーがいます。アマチュア無線による通信を行うための技術や知識以上に、被災地からの情報の断片を集め組み立てること、つまり相手が伝えたいことを推し量る能力が重要と感じたとのことでした。

■小松作品の中のアマチュア無線

 「復活の日」に書かれているアマチュア無線の通信の様子は、ひとつだけ違和感を感じる部分があります。「DXFB(感度良好)」という略語が出てきますが、DXは長距離、あるいは海外、FBは「素晴らしい」という意味ですから、「感度良好」という意味にはなりません。「FB DX」を別れの挨拶として使うことはありますが。もちろん、これは瑣末なことです。
 アマチュア無線が重要な役割を果たす小松作品がもうひつつあります。「こちらニッポン・・・」です。現在社会を支える無数の人々が、ほんの一握りを残して消失してしまった世界を舞台にしたこの作品では、日本全国、いや全世界に点在する人々を結びつける役割を果たしたのがアマチュア無線でした。
 この作品における、アマチュア無線の交信の描写は、まったく違和感を感じません。逆にお手本にしたいくらいです。どなたか、アマチュア無線家のアドバイスがあったのでしょうか。

 
 CQ ham radio 1977年7月号 CQロータリー「こちらニッポン...」紹介記事

■WA5PSとの交信を楽しみにしています。

 WA5PSというコールサインの話に戻りましょう。
 小松先生逝去の悲しいニュースからしばらくして、旧知のJJ1WTL本林さんのBlog(コールサインにまつわる様々な情報が豊富です)でWA5PSが話題となりました。
 現在、割り当てられていないなら取得してしまおうかという趣旨のことが書かれていました。日本人の誰かが持っていたいコールサインだという気持ちを持つのは、私ひとりではなかったわけです。
 そこで、さっそく本林さんに連絡をとり、クラブ局“Sakyo Komatsu Memorial Amateur Radio Station”としてWA5PSのコールサインを取得することにしたのでした。
 私たちは、日本に住んでいますから、実際にWA5PSというコールサインで運用することは、さほど多くありません。しかし、日本から近く、電波伝播状況もよいサイパンやグアムからも、このコールサインで運用することができます。WA5PSメンバーは、過去に何度もこれらの地域から運用していますので、WA5PSでも年に数回は運用できると思います。
 アマチュア無線では、交信した相手とQSLカードと呼ばれる交信証明書を交換する慣習があります。このカードを集めることが、アマチュア無線の大きな楽しみのひとつです。
 小松左京事務所のご好意で、WA5PSのQSLカードに小松先生のお写真を使わせていただけることとなりました。「復活の日」とWA5PSに関する説明を交えてデザインしたQSLカードを発行する予定です。裏面では英文で説明しています。

 
 QSLカード裏面

 短波帯を運用しているアマチュア無線家の読者の方とWA5PSで交信できることを楽しみにしています。


 2012年発行の英訳版  「Virus: The Day of Resurrection」(VIZ Media LLC発行)